第11回の本日は、横浜国立大学 都市イノベーション学府 小ヶ谷千穂先生に『人の国際移動から見る「地域」〜「批判的地域主義」の視点〜』というタイトルで講義していただきました。
グローバリゼーションが進むことで、カネ、モノ、情報と同じように、人も国境を越えて移動するようになりました。グローバル・エリートと呼ばれる世界中のオフィスを飛び回る経営者たち、留学生や観光客、さらには契約労働者としてサービス業や工場労働に従事する人まで、多くの人々が自国を飛び出し活動しています。
フィリピンは出稼ぎ立国とも言われ、政策として海外雇用を推進しており、社会・経済・政治的にも海外フィリピン人の存在が重要になっています。
海外で働くフィリピン人は、送金や海外フィリピン人とフィリピンをつなぐビジネスなど、様々な形で母国を支えています。帰国することがあまりなくとも、送金以外にも教会や学校を寄贈したり、災害時の緊急支援物資提供やNGOへの支援といった援助を行なっており、自国とのつながりをとても大切にし、「バヤニハン(=相互扶助)」の精神が越境化して作用しているようです。
フィリピンの人々は出稼ぎ先でチャイナ・タウンのような場所を持ったコミュニティを形成することはあまりなく、教会のときだけ集まるような普段は目に見えないネットワーク型のコミュニティを作っています。
雇う・雇われるといった階級的な緊張関係を含んだものの、移動した先の人々との間にもつながりを作っています。
このように、複数の国・社会の基盤をもつ人々が織りなす社会関係のことをトランスナショナリズムといいます。
批判的地域主義というのは、ナショナリズムにつながるような同質性を注意深く避けつつ、その共同体に「異質性」を持ち込むことだそうです。
必ずしも皆同じことを考えている共同体ではなく、違いを認めた上で居心地の良い場所を見つけ、複数の居場所で異種混交的な生き方を見出すこともあり得るという考え方は、地域をどう捉えるのかについておもしろい視点だったように思います。