みなさん、こんにちは。本日は2014年度の地域創造論、第04回目となります。
本日は、国際社会科学研究院の大門正克先生による「震災後の被災地で実践してきたこと―歴史から被災地の復興の道筋を照らし出す試み」と題した講義が行われました。今回は大門先生にとって、2012年度に続いて2回目の地域創造論での講義となりましたが、本日は主に、大門先生が3.11以降取り組んできた「歴史から考える復興の道筋」というテーマに関する思索の経過報告というかたちでお話いただきました。
【2012年度の成果とその振り返り】
大門先生は今回が通算2回目の講義です |
大門先生は、「生存」という概念をキーワードとして地域創造を考えます。「生存」とは、大門先生の定義によれば、「人間が生きていくうえで欠かせないもの、その仕組み」のことで、主に「労働」と「生活」から成り立っています。従来の社会科学においては、この「労働」と「生活」を分離して、それぞれのことだけが考えられていましたが、大門先生は「両者は不可分のものである」と考え、より包括的で現実像に近い「生存」という概念を用いて、3.11後の被災地の現実を考えてきました。
大門先生は、ご自身の専門とする歴史という観点から、復興のために必要なものを考えると同時に、地域に対してその成果を還元するために、2012年に新宿と宮城県気仙沼でフォーラムを開催しました。そこでは、「1950~60年台の岩手県和賀町における農村婦人運動」と「東日本大震災後の宮城県雄勝町での活動」についての分析・考察から、後に『「生存」の東北史―歴史から問う3.11』(大月書店、2013年05月)にまとめることとなる「生存」の仕組みB「労働と生活」、C「国家と社会」の重要性を発見したのでした。(詳細はこちら)
【衝撃的「発見」】
口頭による説明を真剣に聴いています |
しかし、上記の『「生存」の東北史―歴史から問う3.11』の編集作業、ならびに2013年に岩手県陸前高田市で行われた同様のフォーラムにおいて、大門先生は2つの衝撃的な「発見」をすることになります。ひとつは、「人間にとっての自然」の発見です。大門先生によれば、『「生存」の東北史』に寄せられた2つの原稿によって、目から鱗が落ちる思いをさせられたそうです。つまり、ひとつは「東日本大震災の津波は、見事なまでに近世から現代までに埋め立てたところだけが浸水している」という事実を指摘することで、地域開発と津波に明瞭な相関関係があったことを示し、いまひとつは、「マグロ漁のエサにするためのイカが余ったことで、それを活用するための塩辛の工場ができ、さらにそこから波及して流通業が発達していった」と述べることで、自然の恵によって人間の経済や生活が成り立っていたことを指摘したのです。これを受けて大門先生は、「生存」の仕組みにとって、ある意味根本的とも言える要素A「人間と自然」を発見しました。
大門先生が体験したもうひとつの「発見」は、「身近な歴史」の発見です。これは、陸前高田フォーラムにおいて、保育所についてのエピソードが語られたことによって思い至ったものでした。すなわち、被災したある地域の保育園においては、日頃から「行事への取り組みへの過程」を大切にすることで近所の人々と保育園、そしてそこにいる子どもたちとの緊密な紐帯が形成されていたというのです。「東北の復興」や「地域の再建」といえば、ともすれば漠然としていてイメージが湧きにくいことにもなってしまいますが、むしろ地域を創っていくうえで重要なのは、「日常的に触れ合ってき人々との記憶や文化」、あるいは「人々が直に体験した時間の積み重ね=身近な歴史」を大事にしたいという想いなのです。そうした地域への愛着や人々のつながりといった社会資本が、ひいては和賀町での「住民と行政の連携」や雄勝の「自尊感情の回復」につながっていくのでしょう。
【福島フォーラムに向けて】
最後に大門先生は、「エネルギー保存の法則」と「エントロピー増大の法則」というふたつの物理法則を持ち出し、「人間の生存にとっての前提とも言える、地球の物質循環や生態系循環を維持するためには、B「労働と生活」、C「国家と社会」の活動は、そのバランスを意識しなければならないのではないか」とまとめ、本日の講義を締めくくりました。
本日の内容は、以上となります。次回は、11月05日、「グループワーク①:グループ課題中間発表Ⅰ」が予定されています。
山川博彰