2014年10月29日水曜日

地域創造論 2014年度 第04回「震災後の被災地で実践してきたこと―歴史から被災地の復興の道筋を照らし出す試み」

 みなさん、こんにちは。本日は2014年度の地域創造論、第04回目となります。
 本日は、国際社会科学研究院の大門正克先生による「震災後の被災地で実践してきたこと―歴史から被災地の復興の道筋を照らし出す試み」と題した講義が行われました。今回は大門先生にとって、2012年度に続いて2回目の地域創造論での講義となりましたが、本日は主に、大門先生が3.11以降取り組んできた「歴史から考える復興の道筋」というテーマに関する思索の経過報告というかたちでお話いただきました。
2012年度の成果とその振り返り】
大門先生は今回が通算2回目の講義です
 大門先生は、「生存」という概念をキーワードとして地域創造を考えます。「生存」とは、大門先生の定義によれば、「人間が生きていくうえで欠かせないもの、その仕組み」のことで、主に「労働」と「生活」から成り立っています。従来の社会科学においては、この「労働」と「生活」を分離して、それぞれのことだけが考えられていましたが、大門先生は「両者は不可分のものである」と考え、より包括的で現実像に近い「生存」という概念を用いて、3.11後の被災地の現実を考えてきました。
 大門先生は、ご自身の専門とする歴史という観点から、復興のために必要なものを考えると同時に、地域に対してその成果を還元するために、2012年に新宿と宮城県気仙沼でフォーラムを開催しました。そこでは、「195060年台の岩手県和賀町における農村婦人運動」と「東日本大震災後の宮城県雄勝町での活動」についての分析・考察から、後に『「生存」の東北史―歴史から問う3.11』(大月書店、201305月)にまとめることとなる「生存」の仕組みB「労働と生活」、C「国家と社会」の重要性を発見したのでした。(詳細はこちら


【衝撃的「発見」】
口頭による説明を真剣に聴いています
 しかし、上記の『「生存」の東北史―歴史から問う3.11』の編集作業、ならびに2013年に岩手県陸前高田市で行われた同様のフォーラムにおいて、大門先生は2つの衝撃的な「発見」をすることになります。ひとつは、「人間にとっての自然」の発見です。大門先生によれば、『「生存」の東北史』に寄せられた2つの原稿によって、目から鱗が落ちる思いをさせられたそうです。つまり、ひとつは「東日本大震災の津波は、見事なまでに近世から現代までに埋め立てたところだけが浸水している」という事実を指摘することで、地域開発と津波に明瞭な相関関係があったことを示し、いまひとつは、「マグロ漁のエサにするためのイカが余ったことで、それを活用するための塩辛の工場ができ、さらにそこから波及して流通業が発達していった」と述べることで、自然の恵によって人間の経済や生活が成り立っていたことを指摘したのです。これを受けて大門先生は、「生存」の仕組みにとって、ある意味根本的とも言える要素A「人間と自然」を発見しました。
 大門先生が体験したもうひとつの「発見」は、「身近な歴史」の発見です。これは、陸前高田フォーラムにおいて、保育所についてのエピソードが語られたことによって思い至ったものでした。すなわち、被災したある地域の保育園においては、日頃から「行事への取り組みへの過程」を大切にすることで近所の人々と保育園、そしてそこにいる子どもたちとの緊密な紐帯が形成されていたというのです。「東北の復興」や「地域の再建」といえば、ともすれば漠然としていてイメージが湧きにくいことにもなってしまいますが、むしろ地域を創っていくうえで重要なのは、「日常的に触れ合ってき人々との記憶や文化」、あるいは「人々が直に体験した時間の積み重ね=身近な歴史」を大事にしたいという想いなのです。そうした地域への愛着や人々のつながりといった社会資本が、ひいては和賀町での「住民と行政の連携」や雄勝の「自尊感情の回復」につながっていくのでしょう。
【福島フォーラムに向けて】
 最後に大門先生は、「エネルギー保存の法則」と「エントロピー増大の法則」というふたつの物理法則を持ち出し、「人間の生存にとっての前提とも言える、地球の物質循環や生態系循環を維持するためには、B「労働と生活」、C「国家と社会」の活動は、そのバランスを意識しなければならないのではないか」とまとめ、本日の講義を締めくくりました。

 本日の内容は、以上となります。次回は、1105日、「グループワーク①:グループ課題中間発表Ⅰ」が予定されています。
山川博彰

2014年10月22日水曜日

地域創造論 2014年度 第03回「国際的な難民支援と緊急援助」

みなさん、こんにちは。本日は2014年度の地域創造論、第03回目となります。
本日は、国際社会科学研究院の小林誉明先生から「国際的な難民支援と緊急援助」と題した講義が行われました。今回は、主に災害復興というテーマについて、JICAで実際に小林先生が支援に携わったウガンダの内戦(19862006)のケースを取り上げて考えてみました。

小林先生がみんなに質問します
 先生の話によれば、ウガンダの北部では内戦状態が20年も続き、約200万人(北部人口の95%)もの農民の人々が、国内各地に設けられた難民キャンプで生活していたそうです。そして、その内戦は、2006年に終結したのですが、何故か難民の人々は元の村に帰ろうとはしません。これはいったい何故なのでしょうか?
 先生のこの質問に対し、学生からは「今の生活の方が援助を受けられる分、楽だから」、「経済的に自立できるかどうか分からないから」、「もう既に難民キャンプの中でコミュニティができてしまっているから」、「難民キャンプの都市的な生活のメリットを実感してしまったから」といった意見が出されました。そして、こういった意見は、どれも実際に難民の方々が挙げた理由だったそうです。
話を聞き、考える学生たち
 故郷の村を捨て、難民キャンプに残る理由は、ひとことで言えば「生活再建のメドが立たないから」ということになりますが、そこにはさまざまな要因があります。例えば、人々が密集して暮らし、「都市」としての生活形態をとることには、まず「便利である」というメリットがあります。自分たちが元々いた村は、買い物をするにも学校に行くにも、長い距離を移動しなければなりません。しかし、人口が密集していれば、経済活動の効率が良くなるので、人々の生活欲求を満たしてくれるさまざまなお店や施設が自然と生まれてきますし、そこに雇用も生まれます。
さらに、20年もの月日は、人々の農民としてのアイデンティティを消失させました。つまり、20年も農作業をしない生活を送ってしまうと、技術や知識、経験を持った人がいなくなってしまったり、忘れてしまったりするため、農業を再開しようとしてもそれができる人がいないのです。
くわえて、元々の村に帰ろうにも、20年間の間に道路や橋などのインフラはなくなってしまっています。それでも人々は、川に適当に木を放り込んで「橋」を架けたりするのですが、それは家畜や家財道具を運ぶことには耐えられないため、人が単身で行き来できても、実際には帰ることができないそうです。
 しかし、人間というものは意外にタフで、本当に必要だと思えば、外から言われなくても自分たちでなんとかしてしまうものです。実際に、内戦があった地域には、自然に出てきたリーダーを中心として、自発的に学校がつくられ、そこで教育が行われているそうです。だから、支援者というものは、単に自分たちのやり方を押し付けるのではなく、そういった自立への意思を持った人々が、創造力を最大限発揮できるような環境を後ろから整えてあげることが必要なのだと、小林先生はおっしゃいました。

本日の内容は、以上となります。次回は、1029日、国際社会科学研究院の大門正克先生による「震災後の被災地で実践してきたこと―歴史から被災地の復興の道筋を照らし出す試み」についての講義が予定されています。
山川博彰
以下は、課題レポートについての情報です。
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小レポートの課題
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ポスト3.11における新しい地域像として,
(1)具体的にどのような地域像を想定し,グループワークの課題を設定したの
(2)グループワークに対して,自分自身の専門分野の知見をどのように活用・提供したのか
(3)GWの結果として何を学んだのか
についてそれぞれ論じなさい。
分量はA4 1~2枚程度
提出は第14回目の終了時(2015年01月21日)
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2014年10月8日水曜日

地域創造論 2014年度 第02回「神奈川地域にみる地域課題の諸相と取り組み、グループ分け」

みなさん、こんにちは。本日は2014年度の地域創造論、第02回目となります。
本日は、成績評価の方法と課題の内容についての説明があった後、グループワークのグループを決めました。
【課題の内容】
 今年度のグループワークは「ポスト3.11における新しい地域像」をテーマとして、各自が関心のある地域に対して、「グループで新しい地域像を考えるうえで解消すべき課題を選定し、その解決策の検討を行い、発表する」というものです。スケジュールについては、第05回(1105日)に「地域課題の設定」、第10回(1210日)に「中間発表」、そして第15回(0128日)に「最終発表」となっています。
【グループ決め】
課題を書き出し、似た関心ごとにまとめます
 グループを決める際には、まず各々が普段感じている、神奈川県内のある特定の地域、あるいはより一般的な現代の都市、農村、社会の抱えている課題をポスト・イットに書き出してもらい、比較的近い関心を持つ者同士で、かつなるべく専門分野が被らないようにしてグループ分けをしました。その際には、都市計画や環境、教育、社会学など、それぞれの視点に応じて、エネルギーや防災、外国人、空き家問題、治安・風紀イメージ、少子・高齢化、コミュニティ、教育、産業の活性化などさまざまな「課題」が抽出されました。中には近年の「和菓子離れ」を取り上げた人もいたのですが、それに対して先生方が食いつき、「和菓子と産業の活性化とその地域らしい暮らしだったら、面白くなりそうですね」といった具合に、みんなで「構想」を膨らませながら、時に期待に満ちながら、時に「誘導」されて、笑いも交えつつ、参加者の割り振りが行われました。
それぞれの関心同士がつながり、「構想」が膨らみます
 その結果、暫定的なグループとして「県西(秦野)」、「海」、「教育」、「産業」、「コミュニティ」の5つのグループが結成されました。もちろん、これは現時点での考えにもとづいたグループ構成なので、このテーマのまま最後まで行かなければならないわけではありません。しかし、グループの結成後、早速イメージ作りの話し合いを始めるグループもあるなど、最後にどんな成果が出てくるのかが、非常に楽しみになるグループ決めでした。


本日の内容は、以上となります。次回は、1022日、国社の小林先生による「国際的な難民支援と緊急援助」についての講義が予定されています。
山川博彰

2014年10月1日水曜日

地域創造論 2014年度 第01回「イントロダクション:地域創造論の構成と本講義の内容・目標」

授業の様子
このブログをご覧の皆様
はじめまして。
お立ち寄りいただきありがとうございます。
本年度も横浜国立大学大学院では、1001日より地域創造論が開講しました。
今年で3年目の授業になります。
このブログでは、各回の講義内容についての簡単な紹介をしていきたいと思います。
この授業は、前半において各研究院の教員により各専門の観点から地域における状況や課題を学び、後半では受講生がグループに分かれ、グループワークを行い、新しい地域創造に向けた提案を行っていきます。

【本日の内容】
本日は、高見沢先生から本講義の流れや目的についての説明があった後、「地域創造とはなにか」、「良い地域創造のためには、何が必要であるか」、「高見沢先生にとって、都市計画と災害とはなにか」という点についてお話がありました。

【地域創造とはなにか】
講義をする高見沢先生
 先生の言を借りれば、地域創造とは、「互いに異なる個性を持った集団や自治体同士が協力しあうことによって、115にも10にもすること」です。
 そして、そんな地域創造のためには、BondingBridgingLinkingが必要です。Bondingとは、コミュニティ内部の結びつきを強化することです。Bridgingとは、異なる集団や個性を持ったもの同士をつなげることです。そして、そうやって生まれた構想や企画を実現するために必要なのが、Linking、つまり資金やノウハウを提供してくれる人と人とのコネクションです。
 しかし、地域創造を考えるうえでは、常に「人々が住みたいと思えるような都市」、「人々が住んでいることに誇りを持てる都市」といったヴィジョンを忘れてはいけません。総じて、地域創造というものは、そうした「住みたいと思える都市をプロデュースする」ことなのです。そして「プロデュースする」とは、「企画、資金、プロセス、技術」を具体的に提案することにほかなりません。グループワークに取り組むみなさんは、こういった点を意識して提案を考えていけばいいのではないでしょうか。

【良い提案を考えるうえでのポイント】
 先生の紹介によれば、『Happy City』という本の中に登場するある都市の事例では、「道路を歩行者の手に取り戻す」というただ一点に集中して、まちづくりを行った結果、その波及効果として、「犯罪は減るし、みんな公共交通機関に乗り換えた結果として、CO2排出の削減にも貢献できた」という成果があがったそうです(詳しくは、高見沢先生のブログへ http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/)。このように、とかく「総合的なソリューションを考える」というと、「いろいろな専門的な知識を集結しなければ…」と考えがちですが、意外とそういうシンプルな視点に立ってみても、好循環のストーリーを描くことはできるのです。

【災害と都市計画】
 日本という国は、地震や台風、火山の噴火、大規模火災などさまざまな災害に見舞われる「災害の国」ですが、都市計画による対策だけでは限界も存在します。
 例えば、過去に都市計画によって防災対策を施された地域は、今度同じ災害が起こっても大丈夫だけど、そうでない所は被害が甚大になるということがあります。「災害は弱者を襲う」のです。また、仮に命だけは助かったとしても、今度は生活を再建するための職がなかったり、避難先の生活に馴染めなかったり…、という新たな問題が次々と生じてきます。こうした現状に我々は対処していかなければならないのです。

本日の内容は以上となります。 長文に目を通していただいてどうもありがとうございました。今学期の最後までとなりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
山川博彰