2012年10月31日水曜日

第5回 レジリエントなサプライチェーン「俊敏性」と「リスク分散」


第5回の本日は、横浜国立大学 経営学部の松井美樹先生に『レジリエントなサプライチェーン「俊敏性」と「リスク分散」』というタイトルで講義していただきました。





今回は地域とは一見無関係そうな企業が持続・継続していくためにどのようなことに注意していかなくてはならないかという視点でお話をしていただきました。


「レジリエント」とは「回復・復元・適応」といった言葉で、東日本大震災やタイの洪水の後に、メーカーが部品などの調達が困難になり製造ができなくなったことで注目度が上がった言葉です。

製造業のようなサプライチェーンでは本体のメーカーになんのダメージがなくとも、部品製造会社や素材の調達先の会社に問題が起こると、最終製品ができなくなってしまいます。したがって、サプライチェーン全体としてすぐに回復し、事業継続していくことが求められます。


そのために、主導権をもつメーカーなどが一次下請けだけでなく、二次、三次下請け、その先まで含めたサプライチェーン全体を把握すること、そして、リスク分散のため複数の調達ルートを確保しサプライヤーを状況に合わせて組み替えることなどが重要になってきます。


災害後の地域においてももちろん敏捷な復旧が求められますから、企業の対策の中にも参考になる要素があったように思います。


また、企業は利益を上げることが第一目的ですから、災害の多い日本ではどうしてもリスク対策を十分に行わないといけない分国際競争においては不利とも言えます。企業は国籍を持たないので日本から出ていった方がいいと判断すればどんどん出ていってしまいます。

地域を考えるときに企業の存在も無視はできないということも考えさせられました。

2012年10月25日木曜日

第4回 国境を越えひろがる市民活動~国際協力と地域活動をつなぐ~


4回目は、横浜国立大学 都市イノベ-ション研究院文化人類学(開発人類学)、開発とジェンダー、パラグアイ地域研究、質的評価の研究をしていらっしゃる藤掛洋子先生に「国境を越えひろがる市民活動~国際協力と地域活動をつなぐ~」というタイトルで講義していただきました。



藤掛先生の20年にわたるパラグアイでの経験やミタイ(こども)基金の活動をもとに、文化人類学の立場から、「地域とその文化を理解する」ことの重要性について、お話いただきました。


映像を交えながら、パラグアイの概況をお聞きするなかで、農村部の貧困について深く考えさせられました。貧困層が多く住む農村において、特に、「マチスモ」という文化規範のもと、女性の立場が弱くても、それが「当たり前」とされているようです。また、公用語のひとつであるグアラニー語を話すだけでは、職業機会が限られてしまい、貧困からの脱却が困難になっているとのことでした。


藤掛先生が携わった生活改善プロジェクトを通じて、野菜の消費拡大、献立改善、スペイン語による教育機会、ジャム加工工場の建設・運営が図られ、少しずつ貧困村であるサントドミンゴ村での地域おこしが軌道に乗り始めました。農村女性たちの目の前のニーズ(実際的なニーズ)が徐々に満たされていきました。


これらを通じて、「マチスモ」文化の相対化が図られ、農村女性自らが、自分たちの状況を見直し、改善に取り組んでいくという変化が生じたということです。外部者であるからこそ、その地域文化の違和感を察知できる一方で、やはり当事者の文化を尊重しなければいけない、でも、やはり改善が必要な部分もある…というジレンマの中で、当事者自身が目の前のニーズ(実際的なニーズ)の実現を通じて、より自分たちの立場を相対化して改善に向けて進んでいくという戦略的なニーズが達成された点について、興味深く感じるとともに、地域の現場で取り組むことの重要性も感じました。


また、日本人学生による国際協力として、現地にいかなくても十分に貢献できるというお話も聞くことができました。
日本の農家との協力で、収穫作業を学生が行い、余剰分をわけてもらい、それらを加工・販売した収益の一部をパラグアイに送るという取り組みについては、地域の農家に対する支援がまた国際協力にも貢献できるということで、素晴らしいアイディアです。


このように地域において文化や貧困の問題はあっても、地域にある具体的な課題を少しずつ解決していくことで、その地域住民が変化していく過程を学ぶことができました。まさに、「地域創造」のひとつの現れではないでしょうか。

2012年10月18日木曜日

第3回 横浜関内地域の戦災復興と地域創造


第3回の昨日は、横浜国立大学 都市イノベ-ション研究院 建築計画研究室の藤岡泰寛先生に「横浜関内地域の戦災復興と地域創造:現代からの再評価」というタイトルで講義していただきました。



関内地区の歴史は災害との戦いです。

1923年の関東大震災による震災、1945年横浜大空襲による戦災。

今の関内はこれらの被害を乗り越え存在しています。



関内地区では延焼を防ぐために防火建築帯という不燃建築が造られました。

見た目はコンクリートのなんてことない建物ですが、帯状にするため複数の敷地をまたぎ、共同化して建てられた独特の建築です。


これらの復興は民間主導で行われていました。
原良三郎(原富太郎(三渓園を作った人)の後継)がまとめ役となり原ビルを作り、以後関内地区には500棟以上の防火帯建築が造られ、今でも200棟以上がまだ現存しています。



戦前に建てられた西洋風の建物は歴史的建築物として知っている人も多いかもしれませんが、
何気なく見過ごしている風景の中にも、実は被災から立ち上がるために原のような民間人が中心となって作り上げた街並みが存在していることはあまり知られていません。

関内は、地元を愛する人々の力によって守られてきた歴史があるというのを、今回の講義で知ることができました。

開講!地域創造論

横浜国立大学大学院では、10月3日より地域創造論が開講しました。

この授業は、各研究院の教員により各専門の観点から地域課題について講義が行われるオムニバス形式の授業です。

また、後半には受講生がグループに分かれ、グループワークを行い、神奈川県行政の方にも連携いただきながら、「Post3.11の新しい地域像」を課題として、複雑で解決困難な地域課題の解決策を考えることを行い、最終回では総合討論を行う予定です。


このブログでは、各回の講義内容についての簡単な紹介をしていきたいと思います。


講義予定は下記の通りです。

第1回 イントロダクション:地域創造論の構成と本講義に内容・目標(高見沢実)

第2回 横浜・神奈川地域にみる地域課題の諸相と取り組み(志村真紀・池島祥文・他)

第3回 横浜関内地域の戦災復興と地域創造(藤岡泰寛)

第4回 グローバルな視点からみた地域課題①(藤掛洋子)

第5回 グローバルな視点からみた地域課題②(松井美樹)

第6回 持続的地域環境創造の視点からみた地域課題①(佐土原聡)

第7回 持続的地域環境創造の視点からみた地域課題②(氏川恵次)

第8回 post東日本大震災①(中村文彦)

第9回 post東日本大震災②(大門正克)

第10回 post東日本大震災③(小嶋一浩)

第11回 移動する人々と『地域』(小ヶ谷千穂)

第12回 グループワーク①:課題をとらえる(田中稲子・藤岡泰寛・池島祥文)

第13回 グループワーク②:課題の関係をさぐる(田中稲子・藤岡泰寛・池島祥文)

第14回 グループワーク③:課題解決に向けたアプローチをつくる(田中稲子・藤岡泰寛・池島祥文)

第15回 総合討論(高見沢・佐土原・池島・田中・藤岡・志村・他)