2014年11月19日水曜日

地域創造論 2014年度 第07回「木造仮設住宅の可能性」

 みなさん、こんにちは。本日は2014年度の地域創造論、第07回目となります。
 本日は、都市イノベーション研究院の江口亨先生による「木造仮設住宅の可能性」の講義が行われました。その内容は、主に「みなし仮設と余剰ストックの有効活用」と「木造応急仮設住宅」の2本柱で構成されていました。
説明をする江口先生
【みなし仮設と余剰ストックの有効活用】
 みなし仮設とは、被災世帯が入居する民間賃貸住宅を都道府県が借り上げ、一定額の家賃や共益費などを2年間負担する制度のことです。東日本大震災直後には約7万戸の仮設住宅が必要となりましたが、突然大量の需要に応えなければならなくなったために、用地の選定や資材の確保などに時間がかかり、結局3ヶ月経っても、25000戸しか確保できませんでした。この3ヶ月という時間は、実は非常に重要な意味を持っています。つまり、それだけの時間があれば、新築の戸建て住宅を建てられてしまうのです。また、仮設住宅は決して快適な居住環境を保証できるわけではないにもかかわらず、坪単価や家賃といった費用の面でもあまり優秀であるとは言えないという実態がありました。そこで注目されたのが、既存の空き家や空き室を利用したみなし仮設の制度でした。くわえて現在、日本には全国で約820万戸の空き家が存在しています。これはなんと、神奈川県の全世帯数(約397万世帯)の2倍以上の数字です。また、成熟社会に突入したことによって、新築住宅の着工件数も年々減少しつつあり、「建てる時代」からの構造転換を迫られています。それゆえに、平常時・非常時のどちらにおいても、空き家や空き室をうまく活用していくことが求められています。
説明を聞く参加者
【木造応急仮設住宅】
 先程の話にも出てきた、(応急)仮設住宅とは、災害救助法にもとづき都道府県の発注により建設される住宅を指し、原則として災害発生後20日以内に着工し、着工後2ヶ月以内に完成することが法的に求められています。しかし、東日本大震災の際には、先程も述べたとおり、あまりにも大量の需要に応える必要に迫られたため、一般的な鉄骨系仮設住宅の供給が追いつかず、実際に約10%が木造で建設されました。こうした選択肢を増やすことは、災害に備えるにあたって是非とも考えるべきことであるため、現在その可能性の検証が行われています。実際に奈良県や熊本県では、地元の林業振興も兼ねた災害協定が結ばれていたため、木造の仮設住宅を供給したそうです。しかし一方で、資材調達や職人の確保といった課題があります。つまり、木材は基本的に、木を伐採してから自然乾燥しないと建材として使えないため、その分のタイムラグが大きく、また平常時には注文を受けてから伐採・加工作業に入り、在庫を用意していないため、非常時の緊急供給が難しいということです。くわえて、現在大工さんのなり手が減少していることに加え、とりわけ僻地といわれるような不便な場所で災害が起こった際には、職人さんがそこまで片道何時間もかけて通わなければならないということもあります。それゆえに、現在こうした課題を解消することが求められています。

 本日の内容は、以上となります。今年度の授業の講義部分は本日で終了となり、次回からはグループワークのためのディスカッションや現地調査となります。次回は、1203日、「これまでの成果概要報告とディスカッション」が予定されています。
山川博彰

2014年11月12日水曜日

地域創造論 2014年度 第06回「神奈川県の被害予想と対策」

 みなさん、こんにちは。本日は2014年度の地域創造論、第06回目となります。
 本日は、都市イノベーション研究院の稲垣景子先生による「神奈川県の被害予想と対策」の講義が行われました。
【ハザードと脆弱性】
防災について説明する稲垣先生(右奥)
稲垣先生は、防災・減災の分野において、人的・物的な被害の大きさは、「被害=ハザード×脆弱性」と表すことができると言います。ここでいう「ハザード」とは、地震や台風、火山の噴火、洪水などの「被害のきっかけとなる外力」のことです。一方、「脆弱性」とは、建物の耐震・耐火性能の低さ、コミュニティの希薄さ、建物の密集と道路幅員の狭さなどの、「外力による影響の受けやすさ」をいいます。現在の技術力では、「ハザード」をコントロールすることは難しいため、主に「脆弱性」の方に対策の力点が置かれています。
【被害想定やハザードマップの見方】
 そのような都市や地域の脆弱性を洗い出し、効果的な対策に役立てるために、行政機関から「被害想定」や「ハザードマップ」といった情報が提供されています。しかし、こういったものを活用する際には、いくつかの注意点をおさえなければなりません。
注意点の1つ目は、被害想定を算出する際には、必ず特定の「条件」に基づいて算出しているということです。つまり、例えば地震の被害想定についていえば、「県央部を震源とした、震度7クラスの地震が、冬の夕方に発生した場合、建物の倒壊は○○棟で、火災によって××件の建物が焼失します」というように、特定の震源、規模、季節、時刻にハザードが発生した場合のことについての情報が「被害想定」として算出されます。しかし、それゆえに、震源や規模などの条件が少しズレただけで、実際の被害状況は大きく異なります。
注意点の2つ目は、算出する際に使用する式はあくまでも過去の経験則にもとづいていて、さらに非常にザックリとした指標を使っているということです。実際に、現在公表されている被害想定は、阪神淡路大震災のときに、「1981年以降の建物は、震度XY%倒壊し、それ以前の建物はZ%倒壊した」という実測データに基づいた「被害率曲線」に準拠して算出されています。しかし、これもまた想定を上回る災害が起これば、実際の被害は大きく変わってくることになります。
それゆえに、被害想定やハザードマップといったものを過信しすぎることなく、あくまでも「その地域の相対的な特徴を把握するための手段」として考えておいた方が賢明であると言えます。
【情報の活用】
質問をする参加者
 そのように、被害想定やハザードマップの限界について理解したうえで、共助が働くコミュニティづくりや行政からの情報提供や避難指示を待たない、自主的な判断力の養成が必要となってきます。しかし、こういった点については、例えば、避難指示を呼びかけても避難率が向上しなかったり、あるいはハザードマップの情報を過信しすぎて、結果的に逃げ遅れてしまう人がいるということが、現実には課題となっています。それゆえに、もちろん防潮堤の建設や建物の耐震性の強化などのハード面での対策も必要となってきますが、それと同時に、「釜石の奇跡」で中学生たちが発揮したような自主的な判断力の習得や共助として一緒に避難することができるようなコミュニティづくりが必要となっています。

 本日の内容は、以上となります。次回は、1119日、都市イノベーション研究院の江口亨先生による「木造仮設住宅の可能性」についての講義が予定されています。
山川博彰

2014年11月5日水曜日

地域創造論 2014年度 第05回「グループワーク①:グループ課題中間発表Ⅰ」

 みなさん、こんにちは。本日は2014年度の地域創造論、第05回目となります。
本日は、第02回のときに結成した各グループによる課題設定と今後の方針についての発表がありました。
発表前の話し合い・打ち合わせ
【県西グループ】
県西グループは、「食」や農業の問題、高齢化、山に囲まれた地形、商店街の空き店舗など地域の特徴や課題になっていそうなものを列挙していき、とりわけ地域であまり活用されていない地域資源の活用と地域の魅力をアピールするための情報発信力の弱さについて、事例を紹介しながら注目していました。一方、まだ具体的に追及していく課題を設定できていない点や「ポスト3.11の新しい地域像」というテーマを考えられてない点が今後の課題とされました。
【産業グループ】
産業グループは、農地とされている所が、実際には資材置き場や倉庫として使用されていて、本来の目的としてきちんと活用されていない点や経済的な成熟期の社会における町工場と地域との関係性を課題として挙げていました。この点、グループのみなさん曰く「まだひとつには絞れていないけれど、『地域の産業の活動をまちづくりの一環として取り込み、まちに溶け込ませていきたい』という点は共通している」そうです。農業と工業はある意味で相対するものかもしれませんが、なんとか上手く融合させることができれば面白くなるのかもしれません(あくまでも、「欲張る」ことを選択した場合ですが)。
【コミュニティグループ】
コミュニティグループは、主に「丘陵地における高齢化・希薄化したコミュニティ」と「防災」の2点に注目していました。コミュニティについては、「実際に会わなくても、情報でつながるコミュニティ像」というアイディアを、防災については、事例を紹介しつつ、「災害時に街灯の光の色が変わることによって、避難所まで行けるようにする」というアイディアを出しました。一方で、まだ両者が別個の問題として独立していて、ひとつの「全体」になりきれていない点が、今後の課題とされました。
【海グループ】
海グループは、とりわけ横浜駅周辺の災害に対する脆弱性に注目していました。そのうえで、人口集中、オープンスペース不足、災害時のエネルギー供給、治安といったキーワードを、「防災」を軸として総合的に解決していきたいとのことでした。一方で、事前復興を考えるにあたって、被害が大きいと思われる帷子川の氾濫への視点がかけていることや、現段階においては「防災」が全面に出すぎていて、多様な専門性をもつはずのグループ構成が活かされていない点が今後の課題とされました。
【教育グループ】
教育グループは、「空き家を子どもの教育に活用していく」というテーマを設定しました。それゆえに、今後は空き家バンク制度が神奈川県内で最も進んでいる鎌倉市の事例について、調べていくそうです。そして、そういった空き家の活用をつうじて、高齢者と子どもが共存できる居場所づくりや防災につながるコミュニティづくりを達成していきたいとのことでした。一方で、単なる鎌倉の事例の普及とならないように、グループ独自の視点で具体的な課題や地域像を設定していくことが今後の課題とされました。

 本日の内容は、以上となります。次回は、1112日、都市イノベーション研究院の稲垣景子先生による「神奈川県の被害予想と対策」の講義が予定されています。
山川博彰

産業グループ
県西グループ


コミュニティグループ
海グループ








 



教育グループ