2019年12月2日月曜日

2019.12.02

講師:
横浜国立大学
大学院都市イノベーション研究院
都市科学部 建築学科
大野 敏 教授

2020年代に向けた
ヘリテージマネジメントの課題


国宝や文化財などは手厚く保護管理されているのに対し、身近な歴史的建造物が人知れず多数消滅している。これを防ぐために、地域の「町医者」的存在のヘリテージマネージャーの必要性が高まっている。1995年の阪神淡路震災を契機に全国に人材作りの輪が広がった経緯と実際の活動についてお話を伺った。
 
1995年阪神淡路大震災後、兵庫の建築家が中心となり地元の建築士などを対象に歴史的建造物についての講習会と保存のための実践活動に取り組み始めた。その後、静岡や、神奈川など、震災被害への危機意識の高い地域を中心に全国にこの動きが展開し、2011年東日本震災では「文化財ドクター」として活動、2016年熊本地震では隣県同士の連携も機能するようになり2019年には全都道府県で実施されている(山形と山梨は2020年に持ち越し)。

ヘリテージマネジメントは災害対応だけでなく、歴史的資産の発見や維持に関与することが重要で、建造物所有者の体験、思い入れを聞き取り、実測、史的調査、痕跡調査を通して復元の考察を行う。ヘリテージマネージャーの誕生によって、歴史的建造物の資産価値を見直しが進むことで、建造物の観光資産としての魅力を再発見できる可能性もある。
  
最初のきっかけから20年を経て、人材作りの入り口に到達した今、今後はこの人材をどう機能させるかが課題となるというお話だった。

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ヘリテージマネージャーは文化庁の人材育成事業の一環で、歴史的建物の基本について60時間の講習を受けることで認定される。基本的には建築士が対象だが、京都や神奈川など、建築士資格を持たない人も受講できるマネージャーコースを設ける都道府県もある。 


 

2019年11月25日月曜日

2019.11.25

講師:
横浜国立大学
大学院都市イノベーション研究院
高見沢 実 教授

2020年代に向けた大学と地域
〜羽沢横浜国大駅開業を前に〜




2004年の国立大学の法人化を受けて、一層着目されることの多くなった、大学と地域の連携について考える。2019年11月30日、相模鉄道とJR埼京線の直通運転が開始する。新駅「羽沢横浜国大駅」の開業を控えて、相鉄、地域、大学、行政の連携でどのような取り組みが可能か。現在進行中のプロジェクトや今後の課題についてお話しいただいた。
 
国立大学の法人化によって、大学は独自の目標を定めて、自らをマネジメントし、運営努力をすることが求められるようになった。また同時に、地域連携と教育研究についても深く掘り下げる必要がある。横浜国大では、2001年に保土ケ谷区からの「商学交流事業」への参画の呼びかけに応じる形で、地域貢献まちづくりとして和田町商店街活性化に向け、「和田町べっぴんマーケット」、「和田町コモン」、「和田町駅前広場再生」など、さまざまな活動に取り組んできた。

和田町での経験を踏まえ、2020年に向けて相鉄線新駅「羽沢横浜国大駅」前でのまちづくり事業に取り組んでいる。横浜国大では11月24日に、「羽沢横浜国大駅開業を契機とした地域と大学のさらなる連携強化」と題した公開講座が行われ、11月30日の開業日当日には記念イベント「ハザコクフェスタ」にも参加する。ステージパフォーマンスやチョイモビ(電気自動車カーシェリング)の試乗・展示会、地元の生産者と横国大生によるマルシェなどが開催される。
さまざまな催しや取り組みを通して、羽沢エリアを活性化させ、新駅の価値をあげることは、地域住民や相鉄にとってはもちろん、横浜国大の大学運営においても、今後少子化・学生数の減少に対応するために重要な位置付けとなる。

本講義の後半では、昨年度の地域創造論グループワークで実際に羽沢駅周辺を対象に、地域の活性化について研究したグループのプレゼンテーションも聞くことができ、これから、のグループワークの進め方を考える際の参考になるお話だった。




2019年11月18日月曜日

2019.11.18

講師:
飛騨五木株式会社 企画研究室長
スミレ地域信託株式会社 常務取締役
井上博成 氏

〜2035年に当たり前に木材のある社会を目指して〜



岐阜県高山市に本拠地を置く飛騨五木株式会社(井上グループ)では、一般的に斜陽産業とみなされがちな森林産業をメインに据えたビジネスモデルを展開している。『自然資本から地域を変える』ことを目指し、グループ企業で連携する強みを生かして、林業、製材業、流通、設計、不動産、エネルギー開発…、と幅広く展開する事業について伺った。
 
井上氏は自身が高校生の頃から、地元高山への訪問動機が観光が中心であることを実感し、同時に、若い世代の移出と移入の少なさに問題意識を抱いていた。そのこともあって、当初から地域に根付いた環境系総合大学の設立を目標に掲げてきた。

井上グループでは、 ヒノキ、スギ、ケヤキ、クリ、ヒメコマツを飛騨五木としてブランディングし、森林資源としての魅力を広める。また、AEONグループとの連携で森ワクマーケット『森のワクワクの庭』を展開。47都道府県から集めた木に囲まれた施設に国産木材で作られた遊具を点在させ、子どもの心を育てる木育に取り組んでいる。開設から3ヶ月で5万人の集客を上げ、業界からの注目も高い。

井上氏は現在も京都大学大学院経済学研究科博士過程に在籍し、自然エネルギーと地域ファイナンスについて研究する。その専門性を発揮して、大学開設の資金として地域資源を活用した事業「飛騨高山小水力発電株式会社」も立ち上げた。

ものが溢れ、ライフサイクルの激しい時代において、地域を活性かするためには地域特性を差別化し、地場の産業を守ることが重要となる。森林資源によって、地域の付加価値を創造することを目指し、研究と実際の活動を常に行き来する井上氏の姿勢は、フィールドワークを取り入れた地域創造論においても、行動と理論を関連づけて考えることが重要であることを再認識させられるお話だった。


2019年10月29日火曜日

2019.10.28

講師:
ヨコハマSDGsデザインセンター センター長 信時正人氏

SDGs未来都市・横浜の挑戦と
“ヨコハマSDGsデザインセンター”のこれから


2015年国連サミットで採択された “持続可能な開発のための2030アジェダ” を受け、ここ数年、世界各国、各分野でSDGsを巡る取り組みへの熱が高まっている。横浜市は2001年に環境未来都市に選定されたこともあり、以前から「環境負荷を押さえながら経済的に発展し、市民生活の質を向上させるまちづくり」を積極的に進めてきたステージアップしたSDGs未来都市・横浜の実現に向けて取り組みをより深化させるチャレンジと今後の課題について考える。


日本全国に制定された11の環境未来都市。各都市ではそれぞれ特性を生かした環境都市づくりが盛んである。例えば、北九州市は企業とタッグを組み、低酸素都市モデルを実現。また、北海道下川町は盛んな林業を生かした森林力による森林未来都市モデルを目指している。 

ヨコハマSDGsデザインセンターでは、横浜市が人口370万人の大都市であることやウオーターフロントに立地することなどを生かした取り組みに注力してる。市民力を生かし、購買傾向を環境に寄り添う方向へ誘導することで大きな効果が得られることも期待される。横浜市の水源である、山梨県道志村との連携で進められている、森林力を有効活用したウッドストロー・プロジェクトや、わかば台団地でのオンデマンドバス走行実証実験など、具体的な取り組みについて教えていただいた

センター長の信時氏は民間、行政、大学とそれぞれの立場でまちづくりに携わってきた自身の経験から、さまざまな課題に異分野が協同で取り組むことの重要性を痛感されている。今後の若い世代にもその姿勢を大切にして欲しいというお話だった。



2018年12月3日月曜日

講師:
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 吉原 直樹教授

〜震災とコミュニティ〜
大熊町を事例として

創造的復興論の基調は阪神淡路大震災から東日本大震災に通底し、開発主義体制の延長上にあった。技術を主体とする大文字の復興は結果と成果を重視するものだが、社会学では生活の内部から生まれるコミュニティベイストな小文字の復興の姿勢でのぞむ。福島第一原発の事故によって避難を余儀なくされた大熊町での事例を参考に復興と再生について、社会学的観点から考える。




吉原教授は東日本大震災直後から福島県に入り、ボランティア活動と日本学術会議社会学委員会の会員としての活動を並行し、現在でも月に2回は会津若松市に通われています。会津若松には大熊町の方々の暮らす復興公営住宅があります。ボランティアとして、住民の方々に寄り添う中で、個人の求めるこれからのコミュニティのあり方と、国や自治体の目指す復興・再生には乖離が見られるのではないかと提起されています。国主導の、行政区を正常化し復帰を急ぐ復興政策で、置き去りにされかねない個々の問題にもスポットを当てることの必要性をお話しいただきました。
 講義終盤には、グループワークのチーム毎に、 大文字の復興と小文字の復興の是非について話しあいました。構造を整備する大文字の復興を行いつつも、それを機能させるコミュニティの復活、小文字の復興。両輪で展開することの難しさと重要性について考える時間となりました。

2018年11月19日月曜日

2018.11.19

講師:
横浜国立大学都市科学部 佐藤 峰 准教授
野毛坂グローカル代表 奥井利幸 さん

〜地域間協力(連携)」の構想と取り組み〜
フラットで双方向的な世界へ


 横浜市がSDGs未来都市に選定されたこともあり、今後はますます地域間協力と、そのマネージメントの必要性が高まることが予想される。野毛坂グローカルの代表である奥井さんにタイやミャンマーでの実際の活動について紹介していただき、海外と日本の地域コミュニティが連携しながら共通課題を解決するにはどうしたらいいか。今後のコミュニティの再構築について考える。




野毛坂グローカルでは、地域の内と外や、国内と海外を繋げるために、地域コミュニティの学び合いの場を多数もうけている。学び合いを通して、専門家に委ねるだけではない、住民主導型の国際協力の可能性を提案している。途上国と日本ではコミュニティの位置付けにどのような違いがあるのか、また、共通する課題は何か、国や行政を越えて日本と途上国のコミュニティ・リーダーが共に活動し、技術や情報、利点などを相互交換することで、より良い地域コミュニティの再構築を目指している。


2018年11月12日月曜日

2018.11.12

講師:
横浜国立大学 機械システム安全研究室
澁谷忠弘 准教授

〜都市におけるエネルギーリテラシー〜
について講義していただきました。



 都市生活において欠かすことのできないエネルギー。世界的にエネルギーの地産地消、エネルギー自給率を高めることが余儀なくされている。その中で水素社会の実現に向けて今必要とされていることは何か。戦略的なイノベーションプログラムによる実証実験や市民のエネルギーリテラシーを探ることによって、都市におけるエネルギーのあり方についてどのように考えていけば良いかを考える。


東日本大震災によってますます再生エネルギーの可能性に目が向けられるようになりました。自給型エネルギーの主力とみなされていた、原子力発電に対応できる次世代のエネルギーとして水素エネルギーの普及が目指されています。本講義では水素の持つ特性、メリット、デメリットをお話しいただきました。高圧力による爆発事故などのリスクに対して、今後どのように対応していけば良いか多面的に検証されています。水素社会の実現に向けて欠かせないインフラ整備(水素ステーションの拡充など)のためには、水素に対する市民の理解を高める必要があります。横浜国立大学では水素自動車の実証実験などをきっかけに、今後、都市におけるエネルギーリテラシーが今以上に高まることを期待する研究に取り組んでいます。
 リスクコミュニケーションの活発化が重要であることなど、今後のグループワークでの政策提案にも参考になるお話しでした。